今回は零売薬局で働く薬剤師から給料明細を買い取らせていただきました。年収は500〜550万。ドラスト時代よりも給料は大きく変わらないものの、「処方せんナシ」で本気のカウンセリングができるこの環境に、めちゃくちゃやりがいを感じているとのこと。ただ、零売ならではの曖昧ルールに振り回されたり、薬剤師によって判断が変わる“販売のグレーゾーン”に悩むことも。今回は、零売薬局という少しニッチな世界で、患者とガチで向き合いたい薬剤師が見つけた働き方をご紹介します。
ここから質問↓
1.零売薬局には“スキルが高い薬剤師が多かった”とのことだが、特に印象的だった先輩や同僚のエピソードがあったら教えて。
2.零売の業務で意見の食い違いや価値観のズレを感じたエピソードはある?そのときの気持ちや対応をぜひ。
3.零売薬局での経験がある薬剤師はあまりいないと思うけど,そこでの経験が、その後のキャリア選択(転職や独立など)にどう影響したか教えて。
4.零売薬局では1日何人くらいの患者が来るイメージ?小さい薬局だと1日40枚くればいいよねみたいなとこがあると思うけど,零売の場合は売上目標や来客者の目標はあった?
5.処方箋調剤と違って集客が難しそうだけど,集客の手段はどんなものがある?
6.よく買われるものを教えて。美容系のシナール,トランサミンとかであってる?そのほかにも売れ筋の商品や意外な売れ筋があれば教えて。
- 零売薬局ならではの「カウンセリング力」が身についたと感じた場面はある?
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話の引き出しが増えたり、薬の提案だけに留まらず患者さんに合った提案手段が格段に増えたなと感じます。
零売薬局はコンパクトで1対1で話すことが多いため患者さんも警戒心が薄れるからか病院や通常の薬局ではなかなかはなさない雑談ベースで様々なお話をしてくれる患者さんが多い気がします。それゆえ患者さんの情報を引き出しやすく、お一人おひとりに合わせたカウンセリングを深く行うことができます。
カウンセリング力が身についたと感じた中で特に印象に残っている例としましては、頭痛で毎回のようにSG配合顆粒をもらいに来る患者様がいらっしゃいました。その方は長年頭痛に悩まされており、病院に通っても同じ薬を処方されるだけで、なかなか改善しないため、病院に行くのを諦めて零売薬局にいらっしゃるようになったという経緯をお持ちでした。
何度か接客しているうちに、顔も覚えていただき仲も良くなり日常会話も増えていきました。その話の中で寝具の話題になり、私が最近まくらを買い替えたという話を出しました。その方はその枕に興味を持ちつつ、とある会話から、「いびきがひどいから枕変えてみようかな」とふとおっしゃいました。そこから、もしかしたら睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、それが起因となり高血圧症状や頭痛にも繋がっているのではないかと提案し、いびき外来を調べ受診していただくようにお勧めしました。
その患者様は睡眠時無呼吸症候群と高血圧であることも分かり、また頭痛の原因の一つだったということが判明しました。無呼吸症候群の治療を少しずつ進めていくうちに、長年悩んでいた頭痛がなくなったと報告してくださいました。
そのほかにもたくさん例がありますがこのような経験を通して、零売薬局だからこそお客様の生活背景まで深く理解し、薬の提案だけに留まらず、根本的な解決策を探るカウンセリング力が身についたと強く感じています。
- 零売薬局には“スキルが高い薬剤師が多かった”とのことだが、特に印象的だった先輩や同僚のエピソードがあったら教えて。
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本当にバラエティ豊かな薬剤師がたくさんいて、一人ひとり持っているスキルや特徴が違っていました。専門性の高い方で特に印象的だったのは、漢方の専門資格を持っている薬剤師の方です。零売薬局では漢方薬も扱えるんですが、患者さんの生活スタイルや体質などを丁寧に聞き取りその情報をもとに、どの漢方がその人に最適かを一から判断して、『この漢方を試してみませんか』と自信を持って提案できるんです。その方からは、様々な漢方の提案方法や、体質別の選び方など、本当に多くのことを教えていただきました。
あとは、零売薬局はまだ認知度が低いということもあり、広告宣伝が非常に重要になるんですが、ITが得意な薬剤師がいれば、WebサイトやLINE公式アカウントの設定などを任されていましたし、イラストやデザインが得意な薬剤師は、医薬品に関する情報や、集客のための広告デザインなどを制作していました。ただの薬の専門家というだけでなく、色々なスキルを持った人が集まっている会社だったので、本当に面白かったですし、そこから薬剤師としての多様な働き方があることを知ることができました。
- 零売の業務で意見の食い違いや価値観のズレを感じたエピソードはある?そのときの気持ちや対応をぜひ。
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やはり零売という制度自体が、かなり曖昧な部分があったため、薬剤師の中でも意見の食い違いが非常に多かったです。例えば、OTC医薬品としても販売されている薬です。ロキソニン錠がいい例ですが零売の原則としては、まずOTC薬を勧めた上で、それでもやむを得ない場合にのみ医療用医薬品を販売可能、というかなり曖昧な制度だったこともあり、ロキソニンを求めて来られた方への販売基準が、薬剤師によって結構分かれていました。OTCのロキソニンしか販売しないという人もいれば、せっかく零売薬局を頼って来てくれたのだからと、最低限度量だけ医療用のロキソニンを販売する人もいて、その判断基準は本当に人それぞれでした。
あとは、零売薬局に依存して患者さんが病院に行かなくなり、病気が進行してしまうという事態は避けるべきなので、受診勧奨を行うことが基本なのですが、その基準や、患者さんへの勧め方、その熱心さの度合いも人によってかなり差があり、患者さんから『あの薬剤師は強く勧めてくるけど、この薬剤師はそうじゃない』とか『せっかく来たのに何も買わせてくれなかった』といったクレームに繋がることもありました。
個人的な気持ちとしては、制度の曖昧さゆえに、どちらの意見も理解できる部分がありました。厳格にルールを守ろうとする気持ちも分かりますし、患者様のニーズに応えたいという気持ちも理解できます。社内ルールも厳格に決めるべきという案もありましたが、そうなると零売薬局薬剤師のせっかくのタレント性も失われて自動販売機のような接客になり薬剤師側も面白さが失われます。なので患者様にとって一貫性のない対応になってしまうのは良くないので、自分の中でのルールはある程度定めてできるだけ明確な基準を持つように心がけていました。ただそれでも他の薬剤師との間で意見が違うこともあり、難しいと感じる場面もありました。
- 零売薬局での経験がある薬剤師はあまりいないと思うけど,そこでの経験が、その後のキャリア選択(転職や独立など)にどう影響したか教えて。
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零売薬局での経験は、その後のキャリアに非常に大きな影響を与えてくれたと感じています。まず、本当に様々な経験をさせてもらえる機会が多かったので、履歴書に書けるようなエピソードがたくさんでき、転職の際にはかなり有利に働きました。面接官の方々も、零売という珍しい分野に興味を持って、色々と質問してくださることが多かったです。そこから話が盛り上がることもよくありました。
また、日々の業務でカウンセリングや接客をする機会が非常に多かったため、自然とカウンセリング力が向上しました。これは、その後の面接など、人とコミュニケーションを取る場面で非常に役立ちましたね。
それに、保険調剤薬局と比べて、売り上げや客数を意識する機会が多かったため、どうすれば売り上げが上がるのかといった小売業のセンスや、薬局経営について考えることが多かったんです。これは、将来的に独立を考えている人にとっては、非常にプラスになる経験だったと思います。
意外なことに、零売薬局には本当に様々なタイプのお客様がいらっしゃいました。例えば、企業の社長さんだったり、色々な会社の方が来局されたりして、そういった方々と親しくなり、転職や独立した後にも繋がるような、貴重な人脈を築く機会もあったと感じています
- 零売薬局では1日何人くらいの患者が来るイメージ?小さい薬局だと1日40枚くればいいよねみたいなとこがあると思うけど,零売の場合は売上目標や来客者の目標はあった?
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来客数としては、だいたい1日に10人から20人ほどというイメージでした。処方箋と違って、クリニックの状況に比例するわけではないので、日によって変動がかなりありました。例えば、雨の日などは比較的少ないですし、逆に土日のように病院が休診の日は、薬がなくなって困ったという方が来局されることが多かったので、必要性を強く感じているお客様が多い印象でした。
売り上げに関しては、人件費や家賃、広告宣伝費などを考えると、月に100万円程度の売り上げは最低限必要だと感じて、皆で頑張っていました。保険調剤と大きく違う点としては、零売は基本的に自費販売になるため、消費税が直接関わってきます。そういったこともあり、単純な売り上げだけでなく、粗利益などを意識して経営を考える必要がありました。
来客数の目標としては、1日に20人以上を目指していました。そのため、口コミでお客様を紹介していただいたり、新規のお客様に零売を知っていただくための様々な企画を考えたりして、認知度向上に力を入れていました。リピーターの数や新規顧客の獲得数なども、重要な目標としていました。
- 処方箋調剤と違って集客が難しそうだけど,集客の手段はどんなものがある?
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基本的な集客手段としては、チラシ配布などがありますね。多くの零売薬局は人通りの多い繁華街に立地していることが多いので、そういった場所で通行人にチラシを配布して、少しでも零売という制度の認知度を高めてもらうようにしていました。実際に店頭に立ってチラシを配りながら、興味を持ってくれた人に零売の仕組みを説明し、来局を促したりもしていました。
他にも、Webでのマーケティングも重要です。LINE公式アカウントを活用した情報発信や、自社のホームページはもちろん、InstagramやXといった様々なSNSを使って、積極的に広告を行っていました。ただ、医薬品の過度な広告は法律で厳しく制限されているので、広告の表現方法には細心の注意を払っていました。
処方箋調剤薬局のように、ただ待っているだけで患者さんが来るということは少ないので、本当に様々な手段を駆使して、集客に力を入れていました。
面白いことに、普通の調剤薬局だと思って処方箋を持って来られる患者さんも結構いらっしゃるんですが、そういった方に向けて零売という制度について説明すると、そんな制度と薬局があることに驚かれる方も多いんです。中には興味を持って、実際に零売を利用してみようとか、その場で色々と相談して薬を購入してくださる方もいらっしゃいました。なので、処方箋を持って来られた患者さんも、私たちにとっては大切なお客様としてアプローチしていました。
- よく買われるものを教えて。美容系のシナール,トランサミンとかであってる?そのほかにも売れ筋の商品や意外な売れ筋があれば教えて。
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美容クリニックで処方されるような医薬品、例えばシナールやトラネキサム酸などはやはりよく売れていました。
その他には、やはり立地が繁華街ということもあり、周辺に飲み屋さんも多かった関係で、二日酔い防止や肝臓ケア、あとは胃腸薬といった、いわゆる『飲み会のお供』のような医薬品を購入される方も非常に多かったです。
それと、漢方に関しても需要がありました。専門の薬剤師がいたり、他の薬剤師も一定の知識を持っていたので、体質や症状に合わせて漢方の相談に来られる方が多く、様々な漢方薬が動いていました。なので零売薬局の薬剤師は、自然と漢方薬の番号と名前をある程度把握できるようになるという特徴もありましたね。
意外な売れ筋というわけではないかもしれませんが、面白いものでは、ペット用の医薬品を求める方も結構いらっしゃいました。ペットに使われる薬と人間用の薬で成分が近いものが多いためだと思うんですが。ただ、零売の制度上、原則としてご本人に来局していただき、カウンセリングした上で販売することになっているので、ペットのためだけの販売はお断りしていました。
【基本情報】
1.性別
>30代・男性
2.会社情報・勤務先の種類(会社名はボカしてもボカさなくても)
>零売薬局(処方箋調剤店舗もあり)
3.勤務地(都道府県)
>東京
4.勤続年数・職種(例:病院薬剤師 5年目)
>2年
5.年収(その給与明細を受け取った年の年収を税込みボーナス込みで大体で)
>500万〜550万円
6.労働時間と残業時間(月平均を大体で)サービス残業有無(有りならその詳細も)
>月22日くらい 残業10時間くらい
7.仕事の満足度(やりがい・人間関係・待遇など総合的に)
>零売薬局での仕事は、ドラッグストアの薬剤師よりも、本当に様々な悩みを抱えたお客様や患者様が来局されるので、そういった方々に対して、一人ひとり違う、多種多様な適切なカウンセリングをするのが非常に面白く感じていました。場合によっては、本当に病院に行かなければいけない方に対して、しっかり受診を勧めて、その上で健康相談に乗ったり、その人のための接客とカウンセリングができることに、非常にやりがいを感じていました。
どうしても処方箋調剤だと、一度クリニックの医師から色々と説明を受けていたり、薬の飲み方を説明されていたりするので、調剤薬局では聞き流すような形で聞いている方も多いんです。なかなか、そういった深いカウンセリングや薬の提案をすることができなくてもどかしい気持ちがありましたが、零売という形態の薬局であれば、「この薬局で相談したい」「この薬をもらいたいけど大丈夫か」といった様々な相談を、この薬局だからこそしたいということで来られるので、非常に面白く、やりがいを感じられました。
また、そこに所属している薬剤師も、そのような特殊な薬局ということもあってか、特殊な薬剤や、特殊な能力やスキルを持つ薬剤師が集まっていたので、非常にモチベーションも高く、レベルも高い人が多かったんです。ですから、自分自身ももっと頑張らなきゃいけないというスキルアップの意欲にも繋がりましたし、色々な職場の同僚たちの話をしっかり聞きたいという気持ちにもなって、非常に勉強になるような薬局、会社でした。
待遇面では、販売できる医薬品であれば、社内割引で購入することもできたりしました。
また、クリニックの場所に依存せず(むしろ邪魔しないようにクリニックの近くには出店してないかも)多くの人に知ってもらうためや人が多い地域に出店する傾向があるので比較的繁華街に多い印象です。なので立地は非常に良いところが多いです。
このように、やりがい、人間関係、待遇という点で、非常に満足度の高い職場でした。
8.今だから言えるぶっちゃけ話やみんなに言いたいことがあれば教えて
>零売はどうしても国からの規制がある制度なので、どうしても人によって販売のルールが異なってしまうという面がありました。処方箋調剤なら90日までとか、薬によって明確なルールがあるのに対して、零売は明確な販売量がないものもあったりして、薬剤師によって判断が大きく分かれることがあったんです。だから、シフトによっては「この薬剤師なら買えたのに、今日の薬剤師は売ってくれない」みたいなことが起こって、患者様からクレームが出ることもありました。
正直なところ、薬剤師の中でも零売に対する考え方は結構分かれていて。制度をしっかり守るという意味でかなり慎重な人もいれば、もっと零売を知ってもらいたいから、多少緩く販売するような人もいて、それによるちょっとした摩擦みたいなものがあったのは事実です。
零売はかなり話題になって、規制も強くなっていくようですが、個人的には、むしろ明確なルールがきちんと整備されてくるのであれば、逆に販売しやすくなるんじゃないかと期待しています。曖昧な部分が減れば、薬剤師も自信を持って対応できますし、患者様も安心して利用できるようになると思うんです。
みんなに言いたいのは、零売はまだ発展途上の分野なので、色々な意見があるのは当然だと思います。でも、患者様のニーズに応える一つの選択肢であることは間違いないですし、今後、より明確なルールの中で、適切に活用されていくことを願っています。